ホテルは取ってないし帰ろうにも終電はとっくに終わっている時間。

酔っているはずなのに妙に頭は冴えている。いや、逆に酔っているのだろうか。上手く思考がまとまらない。

駅近くに漫画喫茶を見つけて、なだれ込むようにチェックインした。今日はどこかで宿を取ったって眠れる気がしない。だったら漫画喫茶で十分だ。

フリードリンクの果汁100%オレンジジュースをがぶ飲みして酔いを覚ます。

──ずっとなぎのことが好きだった

頭の中で反芻する潤くんの言葉から逃げようとしても簡単には逃がしてくれない。それだけ、あの時の潤くんは真剣だったから……。

「……でも抱きたいとか、ないでしょ」

どう反応していいのやら、まったくわからない。
ううん、今までの私だったらきっと軽くあしらったり適当にごまかしたり、簡単に乗り切ってきたはずなのに、それが上手くできないでいた。

「あ~~~、わっかんないなぁ……」

頭を抱えつつデスクに突っ伏す。
このまま眠れたらいいのに。
そう考えつつ、何もまとまらないまま、かといって眠ることもできなかった私は早朝の新幹線に飛び乗ったのだった。

地元の駅に着くころ、潤くんからの着信がある。

「ごめん、潤くん。急に帰る用事できちゃって」

あからさまに嘘くさい理由に、言いながら自分にため息をつきたくなる。

『逃げるなよなぎ』

「逃げてなんかないよ」

『俺、卒業したらなぎを迎えに行くから』

「……何言ってんの」

『だから待ってて』

「……無理だって。今はいいかもしれないけど、よく考えて。潤くんが卒業する頃、私はアラサーだよ。きっと好きじゃなくなるって」

『関係ない!俺はもう、誰にもなぎを渡さないって決めたんだ。とりあえず夏休みそっちに帰るから会おう。約束だ』

そんな一方的な約束が交わされて電話は切れた。
断ることも反論することもできずに、ただ携帯を見つめることしかできなかった。