じわっと滲んでしまった涙を隠すため、目の前のビールをイッキ飲みした。やけに苦く感じられるビールをぐっと喉の奥に押し込む。

黙って話を聞いていた潤くんは体ごとこちらを向いてゆっくりと口を開く。

「なぎ、俺じゃダメ?」

言われた意味をストレートに受け取ってしまい、思わずジョッキを落としそうになった。いやいや、落ち着け私。

「何言ってるの?」

「俺はなぎのことずっと好きだった……」

真剣な眼差しの潤くんを直視できなくて、手元のジョッキに目を落とす。ほんの数ミリしか残っていないビールは飲んでごまかすことができない。

私は精一杯な大人の対応をしようとにこりと微笑んだ。

「ありがとう。私も潤くんのこと好きだよ」

なのに、まったくもって無意味だった。ぐっと手首を掴まれる。潤くんの熱がダイレクトに伝わってきて心臓がびくんと跳ねた。

「そうじゃなくて、俺は本気だから」

「な、何言ってるのよ、学生はしっかり勉強しなさい」

「もう俺だって子供じゃない」

ぐっと迫る潤くんは座っていても背が高いことがわかる。ここが居酒屋じゃなかったら押し倒されていたのではないかというほどの勢いで見下ろされた。

「俺はずっとなぎを抱きたかった」

「っ!ば、バカ言わないでよ。酔ってるよ潤くん。あ、ああ、そろそろホテル行かなくちゃ」

これ見よがしに腕時計で時間を確認するふりをして潤くんから距離を取った。うるさく鳴り響く心臓の音が煩わしい。

酔ってるのは私だ。ビール何杯飲んだだろう。潤くんはウーロン茶しか飲んでいないのだから酔うはずがない。

「明日帰るんだろ?何時?見送りに行くから」

「ん、また連絡する」

逃げるようにお会計を済ませて逃げるように別れた。ドキドキと鳴りやまない心臓のあたりをぎゅっとおさえる。柄にもなく動揺してしまった自分を悔いた。