「何か潤くんがどんどん立派になって、そのうち雲の上の人みたいになっちゃうんじゃないかって思うよね」

「それを言うならなぎはとっくに高嶺の花だよ」

「いやいや、それはないわー。うちのお兄ちゃんの奥さんみたいなのを高嶺の花っていうの。そんな言葉、私には全然程遠いってば」

兄の奥さんである姫乃さんを思い出しながら私は自虐的に笑った。姫乃さんは綺麗でスタイルもよくて性格も奥ゆかしくそれでいて優しい。そのくせお茶目な一面も持ち合わせていてそれがある意味完璧に男性のハートをがっちりキャッチ。兄によれば会社で一目置かれ過ぎていて皆手を出したいのになかなか出せないほどの逸材だったらしい。

がさつで我が儘でドストレートにものを言う私とは大違いなんだよ。

……そういうところなのかなぁ?

自分の反省点が見えてきたような気がした。だからといって姫乃さんのようになれる気もしないのだが。

考え込んでいると潤くんに「なぎ?」と覗き込まれる。心配そうに労ってくれる潤くんは気の利く男だ。

「……私さ、結婚破棄されたんだぁ。両家顔合わせの日に婚約者に逃げられちゃって。だから全財産持って傷心旅行に来たの。でも潤くんのおかげですっごく楽しい。ありがとう」

私の事情を潤くんに言うつもりはなかった。だけど本当は誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。悲劇のヒロインぶるつもりは全然ないけれど、私は今こんなにツラいんだ、だけど頑張ってるんだって、少しだけでいいから誰かに共感してもらいたかった。

本当に一言でいいから、社交辞令でいいから、”ツラかったね””頑張ってるね”って、言われたいんだよ。