年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

「あ、でもそうすると松風はやめちゃうの?」

「一旦ね。戻ったらまた働かせてもらう。学生の間は親のコネで修行させてもらってる身だし、最後までしっかり働いて恩返ししないと」

「あー、そういうこと。修行だったのね」

「そういうこと」

「じゃあ卒業したら後を継ぐんだ?」

「一応それを見据えてる、かな」

潤くんは自虐的に笑う。

潤くんは私と通学班が同じだった幼なじみだ。近所の中でもちょっと大きい家に住んでいて、子供ながらに“大きい家いいなぁ”なんて思ったものだ。

それが実はご両親が、県内でも名だたる高級老舗旅館を経営しているからだと知ったのは少し後の事。

だからと言って潤くん家族がその旅館に住んでいるわけではなく、本当にうちの近所に普通の家(ちょっと大きい)を構えて生活していたので、そのすごさに気付くまでは相当時間がかかった。

松風でアルバイトと称した修行をしているのも、自分の家を継ぐための布石なのだろう。

「じゃあ、お父さんもお母さんも喜ぶね」

「どうかな?俺はどら息子だからさ」

「どら息子は真面目にバイトなんてしないでしょ」

松風で立派に配膳をしていた潤くんを思い出して微笑ましい気持ちになった。あんなにきびきびと丁寧な所作ができるのは、やっぱり家柄のせいもあると思う。高校生のときも少しだけ家の仕事を手伝っていたと聞いていたし。