「そんな無茶な」

「あなた、ご自分が何を言っているのかわかっていて?」

 エリスの申し出を聞き、モンタギュー公爵夫人とルイーズ王女は、驚きあきれていた。

「はい、もちろん承知しております」

 そして、エリスは唇を強く噛みしめ、こう言った。

「私にはもう何もありません。家族は離ればなれになり、先祖代々の思い出の詰まった屋敷は、マクレーン伯爵に取られてしまいました。もし、もし……ジョナサン王子がお戻りになられることで、今の状況が少しでも変わるのなら……」

 エリスは涙で言葉を詰まらせた。

「あなたの気持ちはよくわかりました」

 ハーバート侯爵夫人は、二人の姪の方へ向き直った。

「いいですか、二人とも。今、王家は卑しき者たちによって乗っ取られようとしています。そして、非常に残念なことですが、私たちには手段を選んでいる余裕はありません。あの売女が出産してからではもう遅いのです」

 ハーバート侯爵夫人はここまで一気に言うと、紅茶のカップを口に運び、喉を潤した。

「それに……あのマクレーンという男……私にはどうしても胡散臭く思えて仕方がないのです」

「あの……」

 エリスがおずおずと口を挟んだ。

「私は……いえ、私とその家族はマクレーン伯爵に嵌められたのでしょうか……?」

「その可能性は大いにありますね。いえ、おそらくあの男が関わっているのでしょう。今のところ、すべてがあの男の都合のいいように進んでいますから」

「やっぱり……許せない……」

 エリスは両手で顔を覆った。

 だが、しばしの間を置くと、エリスは意を決したように立ち上がった。

「ハーバート侯爵夫人、私、何が何でも絶対にジョナサン王子を探し出して見せます! どうか…どうか…私をシュヴィーツに行かせてください!」

「そうね。これはあなたにしか頼めないことでしょう」

 ハーバート侯爵夫人は、遠くを見つめながら言った。

「ハーバート家はあなたのことを全面的に支援します。いいですね?」

 ハーバート侯爵夫人が、モンタギュー公爵夫人とルイーズ王女に同意を求めると、二人は叔母の意図を汲み、無言で頷いた。

「ハーバート侯爵夫人、感謝いたします」

 エリスは、ハーバート侯爵夫人に深々と頭を下げた。

「では、エリス・スチュアート。今日、この時を持って、あなたには死んでいただきます」