なぜ理央がこんな話をするのか、意味が分からない。考え込む彩響を見て、理央が大きく溜め息をついた。彼女の口から出たのは、想像すらしなかった言葉だった。

「あの人はね、あなたに未練があるのよ。あなたのことが好きだから、だから離れたくないんだよ。分からない?」

(私のことが、好き?成が?)

佐藤くんも以前似たようなことを言っていた。男の勘とかなんとか、あんなこと言ったけど…結局それ以来なにもなかったし、少し意識していたのももうどうでもよくなっていた。むしろ意識していた自分が恥ずかしくなるくらいだったのに。まさか、またこのような話を聞くとは思わなかった。


「そんなわけないでしょう?成は今の仕事が好きなだけだよ」

「いくら仕事が好きでも、ただの雇用主にそこまで熱くなって、積極的に世話したりしないよ。お金かけてもいいわ、あの人はあなたのことが好きなの」


理央の言葉にはただ笑う。元々恋愛ドラマとかが好きなのは知っていたけど、まさかここまで妄想を膨らませていたとは。彩響がコップを下ろして手を振った。

「違うって。なんの妄想なの?」

「妄想じゃないよ。だって、あの人、あんたをもうそういう目で見てたからね」


そういう目とは、一体どういう目なんだ?確かに、いつも彼の目はキラキラしていて、いきいきしていて、優しいけど…そんな、男女の関係で自分を見ているとはどうしても考えられない。難しい顔をする彩響に、理央が顔を横に振りながら言い続ける。


「あのね、元カレのことがあったから中々そういう気にならないのは分かるけど、もう少し心に余裕を持って周りを見てみたらどう?意外といい人は身近にいるかもしれないよ。…離婚うんぬん言ってる私が言うのもおかしいけど」

「いや、誰もそんなこと言ってないよ。でもどう考えても成が私を好きだとは思えない。だって、一切そんな話してないよ。あの人が好きなのは掃除とサッカーだけ」

「じゃあ、告白したらどうする?『あんたのことが好きだからやめたくない』とか言ったらどうする?」


今日の理央は本当にしつこい。彩響は少し語気を上げてしまった。


「もうやめて。あの人は本気で私の夢をサポートしてくれたんだよ。だから私も応援してあげたいと思うだけ。これ以上恋愛とか告白とか言ってその純粋な気持ちを侮辱しないで」

「どうして好きっていう気持ちを言うのが侮辱になるの?それこそおかしくない?」