「ーで、最近はお互いなにも話さず過ごしているわけ?」

「なにも話さないことはないよ。普通に日常会話はしてる」

ふうーん、と理央がテーブルの上のジュースをストローで飲む。親友の態度はなんだかスッキリしない。彩響も自分のコップを握り、コーヒーを一口飲んだ。理央の態度だけではなく、今自分の気持もどこかスッキリしていなかった。


「せっかくのいい機会なのに、どうしてあんな反応見せるのかな。もうすこし積極的になってもいいのに」


理央に誘われ、近所のカフェでおしゃべりをしはじめ約10分。自然と家にいるあの家政夫さんの話題が出てきた。理央は最初彼がサッカー選手だったと聞き、「どうりででいい体してると思ったわー」と感想を言って、引き続きコーチーオファーの件では「凄い!」という反応を見せた。そして、彼と喧嘩のようで喧嘩ではない口論をしたという話には、目を丸くして逆に質問してきた。


「出たくないって言ったの?この家政夫の仕事をやり続けたいと?」

「そう。考える時間が欲しいと言ったから、それ以降は何も言ってないけど…早く決めて欲しいんだよね、向こうも待ってるはずだし」

「はあ…彩響、あなたって本当に鈍感だよね。これだから今まであんたに気がある男が山程いてもアタックできなかったわけよ」

「…鈍感?どういうこと?」

「あの家政夫さんが今の仕事やめたくない理由って、なんだと思う?」