ジュニアから活躍して、プロのサッカーチームにスカウトされ、そのまま選手になった。実績も出して、何回もゴールを決めた。MVPに選ばれるシーズンもあった。だから、このまま、ずっとサッカー選手としての時間が永遠に続くと信じていた。走りすぎて心臓麻痺とか起こしたりしても、それはきっとグラウンドの上だと、そう信じていたー。

ここまで話した成が、一瞬話を止め、長いため息をついた。続きが気になるけど、急かさずじっと待つ。波の音だけがゆっくり流れる中、成が静かな声で喋りだした。


「大事な試合が目の前だったのに、事故にあったよ。飲酒運転で、普通に歩いていた俺をトラックで引き倒して逃げた。体はぼろぼろになって、試合どころか、日常生活もできるかできないかで、当然ドクターストップがかけられた。当然、そこで俺の選手としての寿命も終わった」


成が袖を上げ、腕のあっちこっちに残っている傷跡を見せる。あ、これは手術の跡だ。きっと体のあっちこっちにこんな跡がたくさん残っているのだろう。傷跡をじっと見つめると、当時の緊迫さが伝わってきた。


「…大変だったね」

「そうだな、大変だったよ。 マジ死ぬと思ったから。でもいざ生き残ると、それはそれで辛かった。ずっとやってきたことがいきなり消えて、俺は一体これから何をすればいいのか、全く分からなかった。 挫折して、あの運転手を恨んで、廃人になって…一年間部屋から出なかったよ 。チームのメンバーが活躍して、ワールドカップに出たり、イギリスへ行ったり…そういうのを知るたびに死にたくて、でも自殺する勇気はどうしてもなくて、そのままずっと引きこもりだった。永遠に部屋から出たくないと思った。でもー」


暗い部屋の中。布団を被って、身動きもしない。成はずっと蹲り、時計の音を聞いていた。今でも外の世界ではみんなの時間が流れている。もう既にシーズンは終わっていて、又来年にはまた新しいシーズンが始まる。何人かはプレミアリーグに出るとの話も聞いた。本来なら、その場に自分もいるはずだった。もっといい成績をだして、もっと広い世界へ、もっと明るい世界へ…。

「…成」

ドアが開く音がして、母が自分の名前を呼んだ。成はなにも言わず、そのまま寝るふりをした。母はなにも言わず中へ入ってきて、ベッドの隣に座った。

「成、起きてるでしょう?ちょっと話せる?」

「……」