大事件があったとしても、人間の生活はそんなすぐ変わるものでもない。いつも通り朝早く起きて、ご飯を食べて、出勤して業務を処理する毎日。残業も相変わらず多いし、徹夜も頻繁にする。しかし、彩響の生活は少しずつ、変化を迎えていた。


「主任、今日マーケティングの奴らと飲みに行くんですけど、一緒にどうすっか?」

「ごめん、今日はこのまま帰ります。なんかあったら連絡ちょうだい」


佐藤くんが彩響の返事に目を丸くする。いつもなら「会食も業務の延長だ」と言い、ほぼすべての飲み会に参加していた上司の変化に驚いた様子だった。


「どうしたんすか、なんか最近付き合い悪くありません?」

「違う。普段も好きじゃないけど、飲みニケーションだと思って行ってただけ。でももうそんなことしない」

「え?やっぱ主任、あのかっけーバイクの彼氏さんが…!」

「違います!」


どうやら佐藤くんはあの日以来、ずっと成のことを彼氏だと信じ込んでいるらしく、何かある度に「バイクの彼氏さん?」と聞いてきた。その度彩響は否定するが、佐藤くんは納得できない様子だった。


「そんな、主任のピンチにあんなすぐに飛んできて、その気がないとかありえないっすよ」

「いいや、あいつは元々誰にもそうするやつだから」

「これは男の勘すよ、勘。見ててください、絶対そのうち主任に告りますから」

「はいはい、じゃあ私は帰ります」


佐藤くんのことばは取り敢えず聞き流した。しかし、やはりこのような話を聞くと、少しは気になるものだ。電車から降り、彩響はずっと佐藤くんが言ってた言葉を考えながら歩いた。


(確かに、あいつが良いやつっていうことは認める。でも、あくまで私は、お金を払っている雇用主で…)

「…彩響!」

「うわっー!!」