「関係ない!そんな意味のない大会なんかに参加する暇があるなら、数学の点数上げることに集中しなさい!京都には行かせません!行ったらまたあんた作家になるとか言い出すでしょう!」


母は自分を追い詰めることだけでは気が済まなかった。結局学校まで現れ、若い担任の先生まで呼び出した。そしてみんなが見守る中、母は自分が貰った書類をそのまま先生の顔へ投げつけた。


「先生なら黙って学校の勉強を教えなさい!!勝手に子供を変な気にさせるな!」

「お母さん、お願い、やめて…!」

「あんたも正気になりなさい、彩響!あんたなんか作家になれるはずがないでしょ!いい加減現実を受け入れなさいこのクソ娘!!!どこまで私を失望させると気が済むの!私が言ったでしょ、勉強さえすれば何も望まないって。なのになんで私を裏切るの?!」



ー「その後、なんとかお母さんは帰ったけど、先生はショックを受けすぎて…それ以来私に必要以上に関わらなくなったよ」


今になっても、その先生には申し訳ないと思っている。きっとどう自分と接すればいいのか、分からなくなったんだと思う。そしてそのまま卒業し、先生とも自然とさよならした。

隣で小さく成が「ひどい母親だ」と呟くのが聞こえた。そう、それでも母親だから、この歳までずっと自分の人生のテリトリーから追い出さずにいた。


「あのな、彩響。本当に、これから本格的になにか書いてみないか?」

「…書く?なにを?」

「小説だよ」


成は自分のスマホを出し、何かを検索して見せた。その画面には「無料小説連載」という検索ワードに合わせ、様々なサイトが載っていた。


「俺も人の子供だから、親に認めてもらいたいという気持ちはよく分かる。でももうそれにこだわらなくていいと思う。ありふれた言葉だけど、自分の人生は自分のものだろ?だから、これからなんか始めてみようよ」


ネットになにか載せるくらい、大したことでは。でもなんだか怖い。この恐れはなんなのか、自分でもよく分からない。でも…。


「…できるかな、私も」

「できる!」

「なんで、いつもそんなにポジティブになれるの?」

「俺だっていつもポジティブでいるわけじゃないよ。ただ、あんたを励ましたい。それだけ」


なんでそんなに、自分を励ましたいのか、それまでは聞けず、彩響はただTreasure Noteを見た。ボロボロのその姿は, 30年辛い思いをしてきた自分の姿によく似ていた。

ーでも、この人がいれば、私も又やり直せるかもしれない。心の傷をテープで補修して、もう一回、夢を見ることが出来るかもしれない…。


「やるんだろ、彩響?」


成が手を伸ばす。その大きな手を見るだけで安心する。

そして、今度は自分が勇気を出す番だ。


「…うん、やる」


その答えに、成は世界で一番大きな笑顔を見せた。