イライラしてメールを打っていると、部屋の中に白谷くんが入ってきた。もう自分が事故ったことに気付いているらしく、罪人の顔で恐る恐る彩響のデスクの前に立った。


「主任、申し訳ないです…」

「白谷くん、これ一体どういうことなの?こんな大きいミスにも気づかないで何をしてたの?!校正する時寝てたの?」

「すみません、それが…」

「あなたがこんなミスをすると、結局責任取るのは私…!」


ここまで言った瞬間、ふと頭の中に例の便器掃除のことが浮かんだ。便器を抱いて、丁寧に中まで手を入れ…。そうだ、自分は人のうんちが付いた便器も素手で洗った人だ。こいつのうんち拭い、いや尻拭いくらいはここまでイライラせずできるはずだ。


「大声出してごめんなさい。何かあったの?白谷くん普段こんなミスしないでしょう」

「え?あ、その…実はその日嫁が入院してて…。お腹の子供に異常があったらしく…」

「入院?!大丈夫なの?」

「はい、もう退院しました」

「そんなことがあったのなら、先に言ってくれれば良かったのに」

「そんな、仕事ですので…でも、結局迷惑かけてしまい本当に申し訳ございません」


事情を聞くと、徐々に心が落ち着くのを感じた。彩響は軽く深呼吸して、そのまま持っていた小冊子を返した。


「ホームページにこれに関する謝罪載せるから、内容昼休憩までに考えておいて。来月号にも載せるから」

「え?あ、はい…。本当に申し訳ございません」

「私に謝らなくていいよ。次から気をつけて」


白谷くんは目を丸くして彩響をしばらく見て、すぐ部屋を出ていった。彩響は再びあの問題のメールも読み直した。さっきはブチ切れてすぐ電話で叫びたい気持ちだったが、今は違う。さっきイライラMAXで書いてあった内容を全部削除し、丁寧に誤解を解く内容を打ち、それを送ると、すぐ内線の電話がなった。田中さんからだった。


「峯野、ごめんな。さっきは俺が見間違えてたよ」

「いいえ、大丈夫です」

「それにしても丁寧に返事してくれてありがとう。俺だったらブチ切れて今すぐ俺のところまで走って来てるよ」


そうだ、以前なら確実にそうしていた。しかし今は違う。彩響はデスクの上においてあったコーヒをとり、ゆっくり返事した。


「いいえ、お気になさらずに。人間誰しも細かいミスはしますから」