「お母さん、違います、これは…」


「いつになったら正気になるの?あんたのクソ親父はね、あんたと私をどっかの生ゴミのように扱って結局捨てたのよ?一体いつになったら現実を受け入れるの?学校通ってお小遣いもらってるから、気楽でたまらないの?私がどっかでお金を大量に拾ってきてるとでも思ってるの?稼ぐのは死ぬほど辛いのよ、お母さんの苦労を少しでも理解しているならこんな馬鹿な真似しないよ、絶対に!これは私を無視している明らかな証拠よ!まさにその父親にその娘ね!」


決してそんなこと思っていない。母が苦労して稼いでくれたお金で学校通えるのも、多くはないけどお小遣いを貰えるのも、離婚した時どこかの施設に送らず連れてきてくれたことも、全部感謝している。なのに母はなにかを言う度に、「父と同じく私を無視する」、「夫に捨てられると子供にも捨てられる」と叫んだ。否定しても話を聞いてくれない。彩響が泣いて謝罪するまで母の怒りは爆発した。いや、たまには泣いても謝罪しても怒りは止まらなかった。


「そんな落書き程度の物書きでご飯食っていけると思うの?才能の欠片もないくせに。小説とか芸術とか、そんなのは明日のお米の心配しなくてもいい、そういう連中が気楽にやるものなの。お母さんは今月の家賃が心配でたまらないのに、あんたはそんなバカバカしい夢見てるの?図々しいにも程がある!」

「違います、お母さん、私は…」

「さっさとそのノート出しなさい!早く!」


母がノートに手を伸ばした。彩響は必死でそれを抱えて、部屋の端っこへ逃げた。どうせ小さい部屋で、逃げ道なんてない。それでもこれだけは守りたかった。彩響は必死でお願いした。


「お母さん、ごめんなさい。二度とこんなことしません。お願い、これは奪わないで、本当いい子にします…!」


「ふざけないで!早くそれ出しなさい。私をもっと怒らせたいの?!」

「二度と作家になりたいとか言いません、勉強もします。バイトもします、だから…!」


そこまで言った時、一瞬目の前が強い衝撃とともに真っ暗になる。床に倒れると同時に、彩響は手に持っていたノートを落としてしまった。視野はすぐ回復したけど、耳に変な音が聞こえる。母はノートを拾い、それを彩響の目の前に広げた。


「やめて…!」