今の感じるこの不思議な感情をどう表現すればいいのか、これを「気持ちいい」と表現していいのか、彩響は正直分からなかった。なんだか寂しい気持ちもあり、なんだか空しい気持ちもあり…。しかし、これはいつもとは違う。いつも会社でへとへとになり、早く家に帰って休みたい…と思うけど、ここへ入った瞬間逆にもっと疲れる気分になっていた。


「…なんかよく分からないけど…。嫌な気分じゃないと思う」

「今までずっと散らかっていて、それに慣れていたのに、いきなり全部消えて変な気分になってるんだよ。でもすぐなれるよ。掃除はドラッグと一緒で、一回このキラキラにはまると絶対やめられなくなるから」

「…ドラッグしてたの?」

「例えだよ、例え」


なんでわざわざその単語を選んだの?一瞬疑ったが、彩響は聞くのをやめた。過去になにがあろうが、今は自分の専属家政夫さんだ。あ、もちろん普通の家政婦とはちょっと違うかもしれないが…。


「さて、次はトイレ掃除をしようと思うが…」


成の顔にいたずらな微笑が浮かぶ。その笑顔の意味にすぐ気付かず、じっと見ていた彩響の頭の中でなにかが閃いた。まさか、こいつー。


「まさか…」

「あ、気付いた?そう、便器掃除を素手でするんだ」

「はあ?!」


彩響の反応に成がにっこり笑う。その意味深な笑顔に、彩響は呆れを超えた焦りを感じた。なにを言ってるんだ、こいつは?唖然としている中、ヤンキー家政夫さんの話は続く。


「今回だけでいい。次回からは俺がするから」

「一回だけでも嫌です!なんで、トイレ掃除を素手でするの?でいうか、一体どこの誰が自分の雇用主にトイレ掃除をさせるの?!」

「まあそんなこと言わずに、俺の話一旦聞いてみなよ」


あー聞きたくない話だ。便器を素手で洗うとか、どんな理由があったとしても納得できそうにない。


「トイレって、人間が最も自分の汚いものを出すところだろ?そんなところを素手で掃除すると、自然と心が謙虚になるんだよ。自然と丸い性格になる。細かいことでいちいちイライラしなくなる」

「そんなことしなくても人は謙虚になれるし、丸い性格になれます」

「自分が丸い性格だと思う?」

「…さり気なく私のことディスってるね」