玄関まで来て、成が下駄箱を開ける。その中にはいつ履いたのかも覚えていない大量の靴や、ビニール傘、その他ガラクタがほこりだらけになっていた。どれだけ探しても結局見つからず、諦めていた化粧ポーチも出てきた。成がそのまま質問する。


「さあ、この中で今まで最近使ったものは?」

「…ありません」

「ならこれら全部、あんたの生活に必ずしも必要なものではないってことだよな。このまま全部捨てるのをおすすめするぞ」

「仰る通りです。処分します」


中には多少値段の高い靴なんかもあったが、それも長年放置したせいで、カビだらけになっていた。なにも考えずに、気に入ったら買っていた自分の浪費癖を思い出して恥ずかしくなる。反省する気持ちで靴を一つずつ出していると、成が奥からなにかを引っ張り出した。


「あんたって、ゴルフの趣味とかあったの?」


成が奥から引っ張り出したのはクラブケースだった。あ、それは…あえて封印していた悪い記憶がよみがえる。彩響の微妙な変化に気付いた成が様子を探りながら質問した。


「えーと…これ、触っちゃいけないやつだったり?」

「いや、そんなことないよ。…それは元彼の」

「あ、なるほど。もしかして…この家もあの人と一緒に住む予定だったーとか?」

「最初はね。途中でダメになったけど」


別れてもう3年も経ったのに、まだこんなもの持っていたなんて。自分自身に呆れてむしろ笑いが出る。クラブケースを見ると、ふと数年前のことを思い出した。
そう、あれは確か、この家に初めて来た日の…




ー「じゃじゃーん!どう、このマンション?」


婚約者が玄関を開いた瞬間、彩響の目が丸くなる。なにもかもがピカピカで、空間も広い。彩響はそのまま中へ飛び込み、部屋の扉を全部開けながら走り回った。そんな彩響の姿を、婚約者は微笑ましく見守る。


「そんなに気に入った?」

「当たり前でしょう!こんないいマンションに住めるなんて!」

「気に入って貰えて良かったよ。ローンはこれから頑張って返さなきゃいけないけど」


ローンは確かにあるけど、今はそんなことどうでも良かった。ずっと狭い部屋で息苦しい生活をしてきたのに、これからは好きな人と、こんな素敵な空間に住めるなんて。幸せすぎて夢みたい。


「私、頑張って稼ぐから!本当頑張るよ!」

「まあ、落ち着けよ。これからここで二人、幸せにくらそうぜ」

「ありがとう、武宏!本当大好きよ」

「俺も、大好きだぜ、彩響」


婚約者が優しく笑う。ああ、今までいろいろ大変だったけど、これから自分の人生もバラ色に染まるに違いない。苦労した分、私にも幸せになる権利がある。間違いない、これは誠実に生きてきた自分に与えられた、神様のご褒美なのだー。