「俺の掃除に付き合う準備、できた?」


河原塚さんの笑顔に一瞬不安を感じる。彩響が視線をそらしながら答える。


「えーと、実はまだ体の調子が…」

「嘘つくなよ。もう大丈夫って言ったじゃん」

「その…心の準備とか?」

「大丈夫だって。俺の指示通りにすればいいだけの話だから。…っと、それより、ずっと前から気になったことがあって」


すると河原塚さんが財布から何かを出し、彩響に見せる。なにかと思えばそれは運転免許証で、そこには名前、住所、年齢…うん?ふと目に入った生年月日に彩響の目が丸くなった。


「え?私より年下だったんですか?3歳も?」

「そうそう、だからそんな敬語使うのやめろって。名前も呼び捨てで良いよ」


あまりにも態度が馴れ馴れしく、最初から自分のこと呼び捨てで呼ぶから、自然と年上だと思っていた。なんか騙された気分になったが、よくよく考えると年に付いて聞いた覚えがない。勘違いしていたのは自分の方だった。


(言われて見れば…この肌のツルツル感とか、バイクに乗って疾走するあの様子は…確かに、20代に間違いない)


「ーいや、年上だから必ずしも敬語をやめるとかそんな問題じゃ…」

「お互いかしこまらなくて、楽な環境で過ごそうぜ。な、雇用主様?」


河原塚さんの図々しい笑いに、彩響は言いたかった言葉を忘れてしまった。まあ、どうせこいつが今更自分に丁寧な態度取るようには見えないし、お互い楽にするのは悪くないかも…。そう考えた彩響は河原塚、いや成(せい)に言った。


「いいよ、成。じゃあ、これから何をすればいい?」

「おっ、いいねーその調子」


嬉しそうに笑って、成がどこかを指で指した。その先には…玄関があった。


「そうだな、…家の始まりはまず玄関から。だから、まずは玄関だな」

「玄関?」

「そう、家に流れ込むいい運気は玄関から入ってくるし、悪い運気は排水口で出て行く。この家は玄関が汚すぎて良い運気が全く入れないんだよな。だからまず、玄関からスタートしようぜ」


良い運気?悪い運気?なんかの風水論に出てきそうな単語に彩響が首をかしける。ヤンキー家政夫さんの理論なんでしょうが、やはりよく分からない。反応が薄い彩響を見て、成が手を引っ張った。

「まあまあ、まずは体を動かす!やってから考える!」

「え?ええ…?!」