結局その日は一日家で休むことにした。珍しい休みに佐藤くんが心配そうなラインをくれたので、あえて絵文字もつけ、元気そうな返事を送っておいた。これで一応安心してくれるだろう。
ベッドで数時間ダラダラしていると、噂(?)を聞いた理央が訪ねてきた。


「彩響、心配したよ!倒れたんですって?」

「そんな、大したことじゃないよ」

「全く、また徹夜を繰り返したんでしょう?もうピンピンしている20代じゃあるまいし、体のことも考えなさい」

「小言はやめて…」


昨日彩響が買ってきたアイスを食べながら、理央が部屋を見回す。そして驚いたように口を開けた。


「あんたの部屋、すごく綺麗になったね。あの家政夫さん、顔だけじゃなくて仕事も素晴らしいじゃない!」


確かに、以前に比べると部屋の空気は大分変わったのを感じる。帰ってきたら、散らかっている部屋を見るだけでもストレスだったのに、今はなんだか余裕まで感じられる。しかし、まだ微妙なプライドが残っていて、これがあのヤンキー家政夫のおかげとは認めたくなかった。


「あの、あまり大きい声でそんなこと言わないで、恥ずかしいから」

「え?だって、事実言っただけだもん。家政夫さん、本当いい仕事してるね。私、いつも思ってたわ。こんな立派なマンション買ったのに、どうしてあんたはここを倉庫のように放置しているのかなーなんてね」


理央の言葉に、一瞬アイスを食べていた彩響の手が止まった。これは、河原塚さんが言ったのと同じことだ。彩響の反応に理央が質問する。


「どうしたの?」

「いや、その…あんたも勿体無いと思ったの?」

「それはもちろん、誰でもそう思うでしょう。私はあんたのことよく知っていて、まああのクソ元彼のこともあったから、今までなにも言ってこなかったけど…普通ゴミ屋敷に住んでいる人って、テレビ局とかが取材に行って、専門家にカウンセリングさせたりするでしょ?あんたももう少しこの汚さが悪化してたら、テレビ局から取材来たかもね」


その後もしばらく雑談が続いた。理央は娘のお迎え時間だと言って、そのまま帰って行った。帰るとき、部屋の外で河原塚さんとなにか楽しく話している声が聞こえた。しかし、それより彩響はさっきの親友の話がショックすぎて、しばらくベッドの上でぼーっとしていた。


(みんな…私の汚いマンションを見て、私に問題があると思っていたの?)


自分は正常だと、必死で主張してきたのに、実際はそうではなかったのだ。

ー自分以外は、みんなこのマンションの主に問題があるって知っていたんだ。

(私以外…!)



次の日は土曜日で、いいタイミングで会社を休むことができた。元々なら土曜日も関係なく出勤するが、今日彩響にはそれよりやらなきゃいけないことがあった。ぐっすり寝て、ベッドで朝食を済まし、リビングに出ると河原塚さんがこっちに気づいて振り向いた。いつものエプロンをしたその姿が、結構格好良く見える。

「おはよう、調子はどう?」

「元気です」

「うん、顔色もまあ悪くないようだな。なら…」


河原塚さんがニッコリ笑った。


「俺の掃除に付き合う準備、できた?」