【渡辺陽葵】

甘いシロップに炭酸水をそそぐ。
パチパチと音をたててはじける泡と一緒に私の心も高鳴る。
エバーグリーンの恋心。放課後の美術室に二人きり。
なんだかいけないことをしているようで少しくすぐったい。

「メロンリーダなんて久しぶりに飲む。」
「うん、僕も。」

あれ?こんな感じだったっけ?と不思議な気持ちになる。
ずっと前から近くにいる幼なじみなのに、なんだかいつもとは違う気がした。

「陽葵ひまり、見て。これ僕の新作。」

そういって律りつは大きなキャンバスに書かれた絵を見せてくる。

「すごい、上手。」

絵のことはよく分からないけど、律の絵には"他の絵とは違う何か"があった。
一度見たら忘れられないような何かー。
私は律が書く絵に確かな才能を感じていた。
よく『絵は人を表す』 と言われる。その人がどんな人生を歩いてきたか
絵をみればだいたい分かる、らしい。

「僕、今日これ完成させてから帰るよ。」
「え?まだ完成してなかったの?」
「うん。まだ"仕上げ"が足りないんだ。」

そう言って律はまた絵を書きはじめる。

「ふ一ん。」

とあえて興味なさそうな返事をする。
私はまだコップに残っていたメロンリーダを一気にのみほす。
炭酸が抜け、甘ったるくなったメロンソーダはその色もあってか化学薬品のような味がした。