懐かしい思い出に浸りながら、エルミアは口ずさみ始めた。
緩やかに時々力強く歌うエルミアの声が、エルフたちの心に浸透していく。
ナターシャの泣き声はやみ、洞穴にはエルミアの歌声だけが響いていた。
【…古代花の…―】
突然エルミアが歌うのを止め、エルフ三人は夢から覚めた気がした。
【…蕾…―】
「どうかされました?」
我に返ったリーシャが、黙って地面を見つめているエルミアに問いかけた。
【青く光る…蕾】
いきなり聞こえてきた言葉が完全に消えた時、エルミアは顔を上げた。
「ミアさま、大丈夫ですか?」
リーシャが心配そうな声で、話しかける。
「また…新しい予言が」
「次はなんですか?」
サーシャが呼びかけた。
「古代花の…」
そこまで言って口をつぐんだ。数人の足音と、話し声がどんどん近づいてくる。
「エルミアがいるのか!ここに!」
その大声は、洞穴の奥の方にいるエルミア達にまで届いた。
「もしかして…」
エルミアが、天の声とでも言うように歓喜の声で答えた。
「アゥストリでしょ!ここから出して!」
歩いていた足取りが、駆け足になり、数人のドワーフを後ろに従えたアゥストリがやって来た。
「お前たち!何てことをしてくれたんだ!」
怒りをあらわにしながら、アゥストリは部下たちに叫んだ。
「す、すみません!」
数人の部下は、慌てて四人の鎖を解きながら、必死に謝る。
「エルフならまだしも、救世主のエルミアに今度手でも出してみろ!お前たちを村から追放するぞ!」
中々怒りが収まりそうにない、アゥストリに近づきエルミアは言った。
「ありがとう、助かりました」
「いや、手荒な真似をしてすまなかった。もし、俺が洞穴から聞えてきた歌声を聴かなかったら、一生ここにいただろう」
それを聞いてエルミアを含む四人は、ぞっとした。
「お前らの処罰は、長老とじっくり考えてやるからな」
エルミアたちを連行したドワーフたちは、身長がさらに縮んだのではと思うくらい小さくなって震えていた。
エルミアはあとで、アゥストリに許してあげるよう言おうと決心した。
戦闘体勢に先に入ったこっちも悪いのだから。
解放されてホッとした四人は、さっさと恐怖の洞穴から抜け出した。