「…さあ、ハミガキの時間だよ。
みんな準備はいいー?
上手にハミガキできるかな?
上の歯、下の歯。
きれいに磨こう
きれいに洗おう
シャカシャカ
シャカシャカ…」



宮殿内に気まずい空気が流れた。



今すぐ穴があったら入りたい。



そんな衝動に駆られたのは、人生においてこれが初めてだ。


顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて顔が上げられないエルミアは、下を向いたまま黙っていた。


静かに聞いていたドワーフが口を開いた。


「これだ…確かにこのメロディーだった」

後ろの四人も頷いていた。
微かに目元が涙で光っている。


「これは、なんていう魔法だ?」

「魔法じゃないです。私は、人間ですから…」

エルミアは同じことを繰り返した。

「人間…?」

ドワーフがエルミアに近づくのが、足音で分かった。

エルミアは驚いて顔を上げる。

ドワーフの丸い目が、エルミアの耳から顔へと移動する。

「確かに、そのようだな」

一瞬にして表情が柔らかくなったのを、その場にいた全員気がついた。

「お前のおかげか…。ありがとうな」

ドワーフがそう言った瞬間、エルフたちが顔を見合わせるのをエルミアは見逃さなかった。

みんなドワーフがお礼を言うのなんて、信じられないという表情を隠そうともしていない。