その瞬間、エルミアの全身を緊張が走った。
「一体、誰だ?」
その場から一歩も動けなくなった。
冷や汗が少しずつ出てくるのが自分でも感じ取れる。
その場に固まっていたのは、エルミアだけではなかった。
先ほどまで「部屋に戻りましょう」と言っていたサーシャも、大きな目をさらに見開いて立っている。
「歌…?」
王子が何を言っているという口調で問いかけた。
「知らないとは言わせないぞ!」
エルフの落ち着いた態度に、ドワーフの堪忍袋の緒が切れたようだ。
声がどんどん荒っぽくなっていく。
エルミアは自分の心臓が口から出るのかと思うくらい、全身を脈が打っているの感じた。
歌をうたったのは、絶対に自分だけだ。
「黙ったままでいるというのであれば、こちらにも考えがあるぞ」
謁見の間には背を向けているのに、まるで現場にいるかのように、今にも戦争が起きるのではという、一触即発の雰囲気がビリビリと伝わってくる。
どうにかしなくては…。
エルミアは、これ以上王子に迷惑はかけられないと、勇気を振り絞りドワーフの前に飛び出した。
「わ、私です!」

