お風呂から上がると、体を芯から温めてくれるような食事が用意されており、多くのエルフに見守られながら緊張して食べ終わると、王子に呼ばれた。


「お前に見せたいものがある」

メイドや側近を、食事に行かせ、二人は王宮の奥にあるらせん階段を上った。


「神殿であるここは、王族しか入れない」


歩きながら、王子がそう説明した。


息切れしながらも、頂上に着くと、そこには、神殿と言うにふさわしい数々の石柱と、小さな水盆が一つ置いてあった。


天井はなく、夜空がキレイに見える。


「家族に会いたいか?」


王子が、隣で空を見上げている朱音に言った。


朱音は驚いて王子を見つめる。


「か、家族に会えるの?」


「正確には、向うの世界を見る、ということだが。
しかし…後悔することになるかもしれない」


綺麗な顔に眉をひそめながら、王子は言った。


相当の負担が既にかかっている、このか弱い人間に、これ以上ストレスをかけるのは危ない。
と言っているようにも見える。


「…後悔しても、家族に会いたい」


朱音は、着ている服の裾を掴んだまま、はっきりと言った。


「分かった」


朱音の覚悟を聞いて、王子は水盆に近づき、小さな声で呪文のようなものを呟いた。


突然水盆が光り輝き、何かを映しだした。楽しそうな笑い声も、その水盆から聞こえてくる。

王子が近づくように施すので、朱音はゆっくりと歩みを進めた。

緊張で、体全体が脈打っているのが分かる。


石を一段上がり、高い位置にある水盆の中を、背伸びしてのぞき込む。

そこには、懐かしい家族の姿があった。

実家のリビングで、家族が集まり楽しそうに夕飯を食べている、何でもないごく普通の光景に思わず涙が頬を伝うのを感じた。


「お母さん、お父さん、亜里沙、おばあちゃん…」


ふと、突然、何か違和感を覚えた。