次の日、みんなの前に姿を現したのは小さなコロボックルだった。

「トック!」

朱音はトックに駆け寄った。

「エルミアさま!」

「元気そうでよかった!」

手のひらサイズの友の姿を見て、熱いものが込み上げてきた。

良かった、無事で。

「トック、セイレーンは…?」

ずっと心に引っかかっていた。

忘れることなど一度もなかった。

恐怖の情景。

女王の手によって悪夢と化した竜宮城。
そして木の一部となったセイレーン。

心を支配された忌々しい記憶。

そんな朱音の心配を払拭するように、太陽のようにトックは笑った。

「セイレーンさまも、竜宮城も問題ないですよ」

先日手紙が来ました、と照れている。

まだ文通は続いているようだ。

「乙姫さまが最近222歳の誕生日を迎えたそうで、竜宮城で豪勢なお祝い事をしたらしいです。僕のところにもおすそ分けが来ました」

キラキラ光る小さな鱗を見せる。

「これは?」

トックは嬉しそうに言った。

「竜宮城行きの許可証です。男子禁制なんですが、特別に頂きました!」

「そっか~。セイレーンに会えるんだね」

「はい!海の中なら会話もできます!」

良かった。本当によかった。

あの記憶がいつか頭の中から消えることを願って、トックが鳥に乗って帰る姿を見送る。

もう竜宮城も乙姫さまも、セイレーンも無事だ。

「もう忘れましょう」

隣にリーシャが立っていた。

きっと思い出したに違いない。
あの時のことを。


「そうだね。全部終わったもんね」