パチパチと薪が燃えさかる音を聞いて、少女は目を覚ました。
こげ茶色の古びた梁の天井が目に入る。
ここはどこだろうか。
自分は死んだのだろうか。
それにしても、暖かい…
節々が痛む重い体を起こしてみる。
ところどころ虫食いのある薄汚い麻の毛布がかけられていた。
「お、気が付いたか?」
木製の扉が開き、少女の三倍はあるだろう体格の男が、戸口から声をかけた。
外は豪雪なのだろう。肩や頭には雪が積もっている。
「ちょっと待ってろ。今、飲み物用意してやるから」
そう言いながら、銀色の短髪に積もった雪を豪快に払い落した。
それから片手に抱きかかえていた薪を煌々と燃える暖炉に投げ入れ、やかんを取り出す。
「…ここは?」
「俺んちだ」
そう答えながらも手を動かしている。
その浅黒い肌からちらりと刺青が見えた気がした。
「ほら、ゆっくり飲めよ」
カップにアツアツのお湯を注ぎ入れながら男は言った。
少女はそれを受け取り静かに口に含んだ。熱い液体が喉を通り、本来の体温を取り戻していく。
「…温かい」
無意識のうちにそう呟いていた。
男は少女の様子をじっと見つめていたが、口を開いた。
「お前、なんであんな場所で倒れていたんだ?猛獣がうようよいる森に。家族は?」
温まったはずの体がまた冷えるのが分かった。
「…分からない」
両親と離れた時のあの切迫した記憶が蘇る。
いいか、二人で逃げてくれ。
ここは俺に任せろ。
ダメよ、危険だわ。私も…
いや、交渉がうまくいくとは限らない。もしもの場合がある。だから…
だからこそ、私が…
そして巨大な爆発音。
その予期せぬ爆風に、少女は吹き飛ばされた。
砂埃で辺りが見えない。
でも声だけは聞こえる。
逃げて。遠くに。
後から追うわ。
必ず迎えに行くからな。
嫌だ…!
そう叫びたかったのに、何頭もの馬の蹄の足音にかき消された。
逃げろ、逃げるんだ。
走り出した少女の背中に、両親の声がずっとこだましていた。