「私の力、返して貰います」

「なん、だと…」

女王はその場に崩れた。

「精霊から力を頂くにも、代償があるのです」

どこかで聞いたことのある声だと思った。

「エルミア!」

王子がまた叫んだ。

「リンディル様…」
優しく包むような声色を響かせて、エルミアが王子の名前を愛おしげに呼んだ。

王子とエルミアは互いに駆け寄った。

そして深く見つめ合う。

「エルミア…。無事か…」

「…はい」


ああ…

分かってしまった。

目の前の光景を見て、全て悟ってしまった。


みんなが長い間求めていたのは、この歌姫エルミアだ。

本物のエルミア。
エルフの世界を救ってきた歌姫。

ここまで誰一人、ミアとは呼んでも、王宮で自分をエルミアと呼んだものはいなかった。

王子が心から求め、愛していた人、エルミア。

最愛の婚約者。


影も形も似ても似つかない自分が、彼女の代役であったということを嫌と言うほど思い知らされた。

朱音はふっと息を漏らし、自ら鏡に足を向けた。


私が出来ることはたった一つだけ。

愛おしい相手との久しぶりの再会。

次々と蘇る幸せだった記憶と、美しき思い出。

それに浸っている彼らに水を差す必要もない。

朱音は風もないのに揺れている鏡の前に立った。


さあ、これで全て終わりにしよう。

亜里沙、ごめん。

一緒に帰る約束は果たせそうにない。


女王が真っ先に反応した。

「小娘!一体、何を…!」

そこでエルフたちも朱音のしていることに気がついた。

「ミアさま!」

「ミア!」

焦ったような王子の声が届き、朱音は振り返った。

「みんな、ありがとう」

「ミア…、何を…!」

美しい顔を歪めた王子が叫んでいるのが見えた。


温かい光が体を包み込んでいく。


―ありがとう、みんな―

私が助けるから。妹を。みんなを。



「ま、待て…!」

女王が手を伸ばした。

辺り一面が、目も開けていられないような白い光に包まれた。









―さあ、お主の願いは?


―私の願いは…