女王…

女王…

女王・・・!


とにかく女王と交渉しようと思った。

どうにか亜里沙を助けてくれないかと。
元の世界に返して欲しいと。

しかし、あちこち聞こえてくる悲鳴に似た雄たけびや、剣が叩き付けられる音に嫌でも気づかされる。


あれほど所せましと城内を動き回っていたトロールやゴブリンの姿が見えない。


嫌な予感がした。


朱音は騒ぎのする方へと向きを変えた。


王子たちがいた。

数十名いるエルフの騎士団を引き連れ、圧倒的数の女王の配下と激しい戦いを繰り広げていた。

辺りに金属音や耳をつんざくような悲鳴がこだましている。

近くで戦っていたグウェンが朱音に気が付いた。

襲い掛かってきたトロールを一撃で倒し、王子に呼びかけた。

「王子!ミアさまです!」

王子がこちらに振り向いた。

その顔を見ただけで、疲れ果てた心が泣き叫ぶ。

今すぐ駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られた。

「ミア!」

ゴブリンの大きな鎌が王子に振り下ろされる。

「王子!」

すぐさまグウェンが王子の前に立ちはだかり応戦する。
何か言おうとした朱音の声が悲鳴に変わった。

「うわあああああ」

突然、頭が割れるように痛み、あまりの激痛にその場に倒れる。

「ミア!?」
「ミアさま!?」

〈精霊の塔へ来い〉

女王のあざ笑う声が脳内にガンガンと響く。

〈さもないと王子もお前の妹のようになるぞ〉

「じょ…おう…」

早く…

どうにかしないと…!


朱音は未だに巨大な鐘が脳内で鳴り響いている頭を抱え、重い体を持ち上げた。


向かう先は知らない場所のはずなのに、足が勝手に、自分の意志とは別に目的まで朱音を(いざな)った。