「この世界を支配するための、精霊を呼びだす等価交換でな。エルミアを精霊に捧げる必要があったのだ。永遠の命、私にはそれが必要だった」

どこか遠くを見つめながら女王は言った。

エルフたちが何年も耐え続けてきた、強大な呪いをかけられたのは、すでに女王が精霊を使い、力を得ていたからのか。

「だが私の力も衰えてきている」

声が少し陰り、女王は朱音に目を向けた。

「永遠の命を得ても、強力な術を使い続けていれば魔力が弱まっていくという難点には気づいていなかった。それゆえ、力を維持するには他のものから奪う必要があった。だからお前を召喚したのだ。エルミアと同じ能力を持つお前が、反対呪文で私以外のところに行ってしまったのは計算外だったが」

コツンコツンとヒールの音を響かせて、女王は朱音の周りをゆっくりと歩く。

「…いや、幸運だったというべきか。精霊は一つしか願いを叶えてくれないかと思っていたが、封印されてもまだ尚戻ってこようと必死だったエルミアのおかげで、色んな情報を手に入れることが出来た。そしてお前たちは思惑通り精霊の道具を見つけてくれた」

そこまで言うと女王は朱音の目の前に立った。

「私の願いは、至って簡単だ。この世界全てを私の支配下にし、果てることない命と偉大なる力を捧げるのを約束してもらう。もちろん王族は跡形もなく消し去るつもりでな」

「で、でも…お、王様たちはもう…」

恐怖で震える体と格闘しながら朱音は口を開くが、女王の氷のような声にかき消される。

「まだ一人残っているだろう」

しかし少し考え込むと、冷ややかに笑いながら首を振った。

「いや、王子は別の者に消されるかもしれないな」

誰のことを指しているのか分かったが、今はそれを考えないようにするしかない。

女王は、朱音の頬に鋭った長い爪を這わせた。

「いいか。お前の大事な者を守りたければ、私を裏切るな」

長い爪の先端が食い込み、血が一筋流れる。

有無を言わさぬ低い声に朱音は思わず頷いていた。

「いい子だ」

朱音の反応を満足そうに眺めながら、女王は言った。

「おや、これはこれは」

突然首元でピシっという音がしたと思うと、女王は朱音のしていた星形のネックレスを手にしていた。

付けていたことも忘れていたネックレス。