首が痛くなるほど高く、重厚感のあるドアの前で二人は立ち止まった。
そこにもやはりと言うべきか、トロールが二体、門番のように待機している。
フードを深くまで被ったレ―ヴが二人に言った。
「予言の娘を連れて来た」
トロールは顔を見合わせてから、頷き、巨大な扉を力任せに押した。
レ―ヴが先に入ろうとすると、耳障りな声でトロールは言った。
「娘のみ、と言われている」
「…分かった」
朱音は足を止めてレ―ヴを見るが、それと同時にトロールに突き飛ばされるように背中を押された。
「女王陛下がお待ちだ。早くしろ」
その勢いで、床に思いっきり転ぶ。
ドアが閉められる音がして慌てて振り向いたが、レ―ヴの姿はすでに見えなくなっていた。
腹の底に響く音を響かせて扉が閉まり、大きな広間に静寂がおとずれた。
朱音は閉まったばかりの扉をただ見つめるしかない。
「来たか」
ぞくっとした。
まるで肌に突き刺さる凍てついた風のような声だ。
朱音は振り向いた。
大きな窓から差し込むぎらついた太陽の光に照らされて、女王は立っていた。
床まで伸びた漆黒の髪が、滑らかに美しくきらめく。
目は燃えるように赤い。
顔を一瞬見ただけで、みんなが女王を恐れる理由が分かった。
目が合うだけで、背筋が凍る。
自分の心の奥底に隠している醜い部分まで見透かされそうな瞳に、何かをかぎつけたように愉快に笑う口元。
女王の一挙一動が、自分を全てさらけ出してしまった感覚に陥らせるのだ。
朱音は、絶対に負けまいと両手を握りしめた。
セイレーンを助けて、亜里沙と元の世界に戻る。
その為に、私はここにいる。
そう言い聞かせ、自分を勇気づけないと、恐怖でこの場から逃げ出したい葛藤に負けそうだった。
「よく来た、エルミア」
エルミアという名前を味わうかのように女王は前へと進み出た。
「お前を待つのは長かった」
愉快そうに笑う女王を、朱音はただじっと見つめる。
「しかし、良い働きをしてくれた」
金色の装飾が施された豪華な椅子を撫でながら話し続ける。
「精霊の道具を見つける手間が省けたからな」
「何を…?」
朱音は目を見張った。
女王が精霊の道具を探しているのは知っていたが、道具のほとんどは自分たちが手に入れた。
女王の手元にはまだないはずだ。
「知っているか?精霊の道具を手に入れるには、ある犠牲が必要だ。その危険は冒したくなかった」
朱音は鈍くなりつつある思考を巡らせた。
古代花を取った時に、リーシャがそのようなことを言っていたことを思い出す。
「等価交換…」
「そうだ」
女王は視線を朱音に向けた。
「お前たちは、良くやってくれたよ。最後の一つまで見つけてくれた」
「最後…?まだあと一つ、残っていたはず…」
「桃色の石なら、とっくに手に入れている。しかし、その時我々にも失ってしまったものがある。失
うにはおしい存在だった。だから、お前たちを利用することにした」
「で、でも…」
女王は朱音との少しずつ朱音との間合いを詰めていく。
「今は王子が全て…」