王子との戦いから、レ―ヴへの気持ちが疑わしくなっていたが、妹を助けてくれていたのは事実だ。
そして、きっと、自分を女王の元ではなく、まず妹のところに連れて行ってくれたのもレ―ヴの気遣いだったのかもしれない。

「あなたの狙いは、何なの…?」

「もうすぐ分かるよ」

レ―ヴはポケットから鍵を取り出し、鉄格子の扉を開けた。

「エルミアちゃんだけ、おいで。女王が呼んでる」

その名前を聞いて、朱音はドキッとした。

その名前で呼ばれることに慣れ過ぎて、また自分の名前や家族のことを忘れてしまったら…。

その不安が伝わったのか、亜里沙は自分の服を破いて朱音に渡した。

「これ、持って行って」

渡された「はぎれ」には、懐かしいお母さんの字で「しのみやあかね」と書かれていた。

「このジャージ、お姉ちゃんのだから」

照れたように笑う亜里沙の顔を見たのは、物凄く昔のように感じた。

「私は、大丈夫。自分の名前も、お姉ちゃんの名前も忘れないから」

はっきりした口調で話す妹は、いつの間にこんなにも成長していたのだろう。

人に甘えていた亜里沙が、全くの別人になった気がした。

「絶対、元の世界に返すから。約束する」

しゃんと立っているが、震えている亜里沙を抱きしめながら朱音はハッキリとした声で言った。

「お姉ちゃんとして、この約束だけは絶対果たすから」

「うん、信じてる」

また瞳が潤みそうになりながも精一杯笑顔でいる亜里沙の頭を撫でてから、後ろ髪引かれる思いで地下牢を後にする。

亜里沙は最後までずっと見送っていた。

これが二人で会う最後の機会だったと、亜里沙は心のどこかできっと分かっていたのかもしれない。