この暗闇の中、独りぼっちでずっと…。

どんだけ恐怖だっただろう。
どれだけ苦しかっただろう。

朱音は、亜里沙を強く抱きしめた。

「まさか…新女王って亜里沙のこと?」

王子が一度女王の城に侵入した際に聞いた話を思い出す。

「そんな話もあった気がする…」

朱音の腕の中で亜里沙は呟いた。

「でも、私の力が、みんなが思っていたより弱かったせいで取りやめになったみたい」

亜里沙は、朱音の背中に回した手に力を込めた。

「お姉ちゃん、私たち、元の世界に帰れるよね…?」

「もちろん」

そう言いながらも朱音にその自信はなかった。

自分の本当の名前すらも忘れていたのに、どうしたら元の世界に帰れるのか、その方法は見当もつかない。


「感動の再会は、終わった?」

いきなり明るい声がして、二人は同時に息を飲んだ。

鉄格子の向こう側には、ロウソクの光のみでもなお美しく輝くレ―ヴが立っていた。

「れ、レ―ヴ!」

朱音は、亜里沙の手を離し、鉄格子に駆け寄った。

「あなたが裏切るなんて…」

目の前の柵さえなければ、今すぐ飛びかかってやりたい。

そう思ったのもつかの間、驚いたことに、妹は目の前の裏切り者に向かって嬉しそうな声を出した。

「レ―ヴさん!」

朱音は亜里沙を見つめた。

「レ―ヴさんは私を助けてくれた唯一の人なの」

険しい表情を読み取った亜里沙が、朱音が口を開く前に言った。

「この地下牢が、女王の城で唯一、呪いが届かない安全な場所だと教えてくれたのもレ―ヴさんだよ」

言われてみれば、亜里沙との再会で忘れていたが、ここずっと続いていた体のだるさや恐怖に支配されていた思考がどこかへ行っている。

「そして、名前の秘密も…」

「え?」

朱音は思わず聞き返した。

「お姉ちゃんに会うまでは、絶対にあり得ないと思ってた。この世界に長くいすぎると、本来の自分すらも忘れてしまうって。この世界の名前を付けられて、しばらくするとね」

「お姉ちゃんが私を忘れるはずがないって信じてたけど。本当に覚えていないから、驚いた。レ―ヴさんを信じて、自分の名前を覚えてて本当に良かったって」

そして亜里沙はレ―ヴの方に向いた。

「ありがとう」

「どういたしまして」

レ―ヴは軽く会釈をし、人懐こそうな笑顔を向けた。

「そう…だったの」