その人物の目には、大粒の涙が溢れていた。
エルミアの恐怖に駆られた姿を見てもなお、ふらふらとした足取りで近づいて来る。
「嘘でしょ…」
目の前の人物がそう呟いた。
エルミアは泣いている見覚えのない女の子を見つめた。
その女の子は、一度足を止めたかと思うと、いきなり駆け出し勢いよくエルミアに抱き付いた。
「お姉ちゃん!!」
一瞬の出来事に、エルミアは呆然とし、言葉を失った。
「お姉ちゃん!お姉ちゃんでしょ!会いたかった…」
腕に力を込めて女の子は泣き叫んだ。
抱きしめられた勢いで、肘が石の壁に当たり、痛さに思わず顔をしかめる。
腰に抱き付いている女の子も気がついたようだ。
エルミアの胸元に顔を埋めて泣いていたが、体を離しエルミアの足を見た。
「お姉ちゃん、ケガしてる!さっきのトロールの仕業ね…」
下唇を噛んで、女の子は言葉を吐き出した。
それから、見慣れない服の裾を破いて、エルミアの足に巻き付けた。
そのテキパキとした行動を凝視するしかないエルミア。
この世界のものとは思えない奇妙な服装に、不自然な茶色の髪。
瞳は黒く、耳はエルフのようにとがってはいない。
自分に似ている個所がいくつかあるのに、全く身に覚えがない女の子。
「…誰、なの?」
何かの勘違いを起こさせているのであれば、そうそうに誤解を解かないと。
きっとこの子は、私と同じ人間だ。
そして大きく見開かれた、自分と同じ黒い瞳を見つめた。
「お姉さんを探しているの?」
「覚えてないの?私のこと…」
ショックで見開かれた目から、またもや涙があふれ出す。
「私だよ!亜里沙!私は、朱音お姉ちゃんの妹でしょ!」
あ、かね…?
エルミアは肩を大きく揺さぶられた。
女の子とは思えないほど強い力だ。
何かを訴えようとしているのが伝わるせいか、それに抗えない。
「わ、私はエルミア…」
慌てて自分の名前を出すが、女の子の激しい声でかき消される。
「お姉ちゃんは、朱音でしょ!思い出せ!四宮朱音!!」

