バルコニーに出て夜風に当たると、気持ちが落ち着いて来た。
大きな満月を見つめた。
黄金のペガサスが飛んでいたあの一生忘れられないだろう夜を思い出す。
キラキラと光る粉雪と、黄金の羽根を持つペガサスたち。
そして満月の光に照らされた神々しいほどに美しい王子にふいにされたキス。
まるで随分と昔のことのように感じてしまうのはなぜだろう。
エルミアは笛を口に当て、ふっと吹いてみた。
意外と簡単に音が出た。
一つずつ音を確認しながら音色を楽しむ。
音を聞いているだけで、とても心地がいい。
「眠れないのか?」
突然後ろから声をかけられて、エルミアは笛を落としそうになった。
「王子!起きていて大丈夫なんですか?」
エルミアの隣に立ち、満月の光を浴びながら王子は微笑んだ。
「心配かけたな」
なぜかその笑顔を見てエルミアは胸の奥が痛んだ。
黙っているエルミアを不思議に思ったのか、手元に目を移した王子が聞いた。
「さっきの音はそれか?」
「はい、横笛です。音が奏でられるかなと」
「笛…」
王子の顔が一瞬、曇った。
「どこかで見たことがある。しかし、どこで…」
思い出せないのか頭を振って言った。
「聴かせてくれるか?」
エルミアは苦笑いした。
「私も吹けないんです。さっき音を確認したばかりで…」
すると驚いたことに王子が手を差し出した。
「貸してくれ」
エルミアが言われた通り差し出すと、王子は軽く息を吸い、美しい音色を奏で始めた。
「王子…どうして?」
一通り吹き終わると、エルミア同様驚いた顔をしている王子が笛をまじまじと見つめながら呟いた。
「私にも分からない。でもなぜか知っている…」
そしてもう一度、今度は別の曲を演奏し始めた。
甘く惚れ惚れする程美しいメロディーなのに、込み上げてくるこの寂しさは一体なんなのだろう。
エルミアは王子に気づかれないように、涙を拭いた。
夜空が段々と白み始めた時、王子の曲が終わった。
エルミアは胸の内を隠すように満面の笑みで拍手をする。
「凄いです」
「ありがとう」
恥ずかしそうに、でもどこか不思議な表情を残したまま王子は笛をエルミアに返す。
エルミアは首を振って笑った。
「王子にあげます。私より、才能がありそうですから」
「そうか」
王子は嬉しそうに笛を見つめていた。

