「今日、アゥストリのところに行く」

エルミアが言うと隣に座っている王子が眉をひそめた。

「なぜ?」

「友達のところに行くのに理由がいる?」

半ば喧嘩腰のエルミアを、不思議そうにエルフたちは見つめている。

「友達?まあ、いい。お供を…」

すこしばかし怪訝そうな顔した王子がそう言うと、エルミアは首を横に振った。

「エルフが行くと警戒態勢になっちゃうの。だから私一人で行くよ」

「一人は、危険すぎる」

王子も負けじと食い下がる。

「でももう、何度も…」

慌てて口を閉じたが、すでに遅かった。

王子の纏う空気が一気に冷たくなる。

「何度も?」

「あ、いや…」

エルフたちはその後を察知したのか、音も立てずに部屋を出て行くのが目の端で見て取れた。

なぜか、逃亡チームにグウェンも加わっている。


「は、薄情者…」

もはや見えない彼らの背中を追いかけるように立ち上がるが、王子に腕を掴まれ無理やり座らされた。

「ミア、どういうことだ?何度もドワーフのところへ行ったのか?一人で?」

いつも冷静な王子に珍しく言葉数が多い。

エルミアは自分のスカートをいじりながら頷いた。

「一人で?」

確認するかのように強くくり返す王子。

完全に怒っている。

エルミアは言い訳するように王子に向いた。

「アゥストリはとてもいい人なの!初めの出会いはあまり良くなかったけど…」

「ドワーフの洞穴に監禁されたのは忘れたのか?」

痛いところを突いて来る。

「あ、いや…。その誤解は解けたし、なんせ、助けてくれたのはアゥストリだよ」

懸命に弁明するが、王子は聞く耳を持たない。

これは長期戦になりそうだと思った。

「でも、色々助けてもらったし…」

今のところこの世界について情報をくれるのは、アゥストリの父が残したあのノートくらいだ。

そして、何かあった時に話を聞いてくれる相談相手のアゥストリに会えなくなるのだけは、絶対に避けたい。