「この前、大嵐があったの。大嵐の日には、沈没する船が見れるって聞いたから、みんなは止めたけど一人で海の上まで行ってみたの。だって一人でやり遂げたらみんなに褒められるかなって思って。そしたら、自分の力ではどうしようもないくらい流されちゃって…」


バンシーは大粒の涙を流しながら続けた。

「気づいたら、知らない浜辺に打ち付けられていたの。帰りたくても、体力もなくてケガもしてて…。そしたら、その時近くを通りかかった殿方に助けてもらったの」

涙が止まり、ふと夢見心地になる。

「トックのことだ…」

エルミアの呟きは耳には届かず、バンシーは続けた。

「それ以来、あの方が忘れられないの。今すぐにでも、会いたいのに、私は人魚だから地上には出られない…」

そしてまた大声で泣き始めた。

「あの方にもう二度と会えないのであれば、私は一生この暗闇で自分の人生について悔やみながら暮らして行くわ!」

まるで映画のワンシーンのように泣き崩れるバンシーを静かに見守るエルミア。



しばらく泣いたあと、自分でも満足したのか、バンシーは顔を上げた。

「それで、こんな私になんの用?」

ぶっきらぼうに聞いた。


やっと本題に入れると、安心したエルミアは泣きのスイッチを押さないように慎重に言葉を選んで話始めた。

「精霊の書って知ってる?」

「…知らない」

一瞬考えてからバンシーは首を横に振った。

「水の精霊を呼び出すにはね、あなたのその虹色の鱗が必要なの」

「鱗…?」

バンシーは自分のヒレを見つめた。

一番腰に近いところに、虹色の鱗がある。

「ああ、これ。確かに姉さんたちはない鱗ね。私だけなんでこんなものがあるんだろうって落ち込んでたけど、まさか欲しい人がいるとはね」

エルミアはなるべく低姿勢で聞いた。

「それ、私にくれない?」

お願いだから癇癪は起こさないでと、願いながら聞くとあっさりとバンシーは言った。

「いいわよ」

思わぬ返事にエルミアは嬉しそうな声を出した。

「本当!?」