人魚が顔を上げた。
その瞬間、エルミアは身震いしてしまった。
白い顔は少女のように幼いが、目は黄色く光り、真っ青の唇からはちらりと鋭い牙が見えた。
「この私なんかに、お願い?」
いきなり来て、何を言っているのと、怒りをあらわにした少女に慌ててエルミアは言った。
「まずは、話をしたいかな、なんて」
気づかれないように後ろに後ずさる。
護衛のエルフなしにここに来てしまったのは、無謀だったかもしれない。
「あの…どうしてここにいるの?」
とりあえず質問をしてみる。
「私なんか…。私なんか、こんな場所で十分なのよ…」
またもや泣き出しながらバンシーは言った。
「変わり者ってみんなに噂されて…仲間はずれにされるし…友達は出来ないし…。私は一生ひとりぼっちなんだわ!惨めに生きていくしかないのよ」
ああ、こういうタイプの人は昔から苦手だった…
泣いている人魚を見つめながらエルミアは思い出していた。
自分がいかに可哀想かアピールするタイプ。そのくせ、他人の痛みには鈍感で、自分が常に話題の中心で、悲劇のヒロインになっていないと気が済まない。
どの世界にもいるんだなぁ…なんてぼんやり考えているとバンシーが声を荒げた。
「ねぇ、聞いてるの?」
「聞いてます!」
慌ててエルミアは言った。
「それで?」
話半分だったが、先を促しておけば問題ないことを今までの人生で学んでいた。

