「海だー!」

エルミアはもう一度叫んだ。


海なんて、何年振りだろう!

太陽の光が反射してキラキラ光り立つ海に、旅行のパンフレットにも載っていそうな美しいリゾート代表とも言える白い砂。

もちろんゴミなんて、一つも落ちていない。


「表情が、よく変わるな」

王子がその様子を愉快そうに見つめる。

「ミアさま、フキ畑はこちらです!」

王子の隣からサーシャが叫んだ。

興奮しているエルミアは、一人でだいぶ遠くまで行っている。


「少し、遊ばせてやれ」

楽しそうに笑いながら、王子は日陰を探して馬の方へと戻った。

「大丈夫ですか?」

エルミアの後ろに追いついたリーシャが聞いた。

「海風が気持ちいね~」

質問が聞こえていないのか、エルミアはその問いには答えなかった。

靴を脱ぎ、足を冷たい水につけると、気分もいくらか良くなってくる。

サーシャやナターシャも久しぶりの海に、浮かれているようだ。


その様子を、木に寄りかかりながら、眺めている王子とグウェンが遠くの方に見える。

風に揺らめく金色の髪が、さらさらと横に流れるさまを見ると、やはり自分の意思とは反対に心が動いてしまう。


「大丈夫じゃないけど、大丈夫にならないと」

先ほどの問いかけに答えるように、自分に言い聞かせた。


すぐさま視線を地平線へと移し、エルミアは頭の中にふとよぎった音楽を口ずさみ始めた。