乗り心地は良いとは言えない馬での、乗馬。

それに加えて、なぜかエルフはフルスピードを出したがる。


エルミアはとにかく馬のたてがみに必死に掴まっているしかなかった。


いつか落馬するのではとビクビクしながら、走る事、数十分。

潮の匂いが鼻をついた。


「そろそろ着きますよ」

背中でリーシャが明るいトーンで言った。


馬を全速力で走らせるのが好きなようで、とても機嫌がいい。

しかし一方でエルミアは、自分が地上に足を着けるまで、生きた心地がしなかった。


「大丈夫ですか?」

エルミアに手を貸しながら、心配そうにリーシャは言った。

リーシャに抱えられるようにして、馬から落ちるようにして、滑り降りる。

「かろうじて生きてる…」

足元はふらつくし、なによりお尻と腰と太ももが死ぬほど痛い。

帰りの事を考えると、自分から行くと言ったことを後悔せずにはいられなかった。



しかし、目の前に広がる地平線まで見渡せるほどの絶景を見ると、一気にそんなことは吹っ飛んだ。


「う、海だー!」

我慢出来ずにエルミアは叫んだ。


いつの間にか一行(いっこう)は、海岸までやって来ていた。

白い砂浜に、透き通った広大な海。砂の上を歩くたびに、きゅっきゅっと砂浜が笑い声を立てているような音を出す。