「歩いて行ける距離じゃないんだ…」
数頭の白馬を目の前にして、エルミアは呟いた。
どうも乗馬が苦手である。
そして、どうも馬に嫌われている気がする。
エルフたちは体重がほとんどないため、馬に負荷をかけない。
しかし人間のエルミアを乗せる馬はその重みに慣れず、不快に感じるのだ。
「大丈夫ですよ。今日は、機嫌いいですから」
リーシャが馬の首を軽く叩きながら言った。
「…でも」
馬に乗りたくない理由はもう一つあった。
普通、人間が乗馬をする際には、鞍というものが着いている。
もちろんそれは、自分たちが乗りやすくするためなのだが、エルフにそれは必要ない。
前回の遠征で、鞍のついていない馬に乗ると、腰だけでなくお尻も泣きたくなるほど痛くなることを、嫌なほど味わった。
帰り道は気絶していたため、記憶はないのだが。
「私と乗るか?」
唯一王族の紋章が付いた鞍を着けている王子が、爽やかに申し出てくれるが、その横でグウェンがもの凄い形相で睨んでくる。
「結構です…」
そう言ってリーシャの手を借り、前回と同じ位置に座る。
そして「今度、私専用の鞍をお願いします…」と小さな声で懇願した。
リーシャはくすりと笑い、「承知しました」と言った。

