蒼月が少し傾いた。
と同時に、ドン!という轟音を立て、水柱が崩れ、辺り一面に水がはじき出される。
水しぶきが強すぎて、目が開けられない王子は、しばらく床に膝をついたまま静かに、事が収まるのを待っていた。
水が完全にはけ、辺りは静けさに包まれた。
何事もなかったかのように、水はゆっくりと水盆へと戻って行く。
そして、その近くに立つ一つの影。
「ミア」
王子は立ち上がり、後姿のエルミアに声をかけた。
エルミアはゆっくりと振り返った。
顔が水なのか涙なのか、濡れている。
「なぜ…」
「分からない」
エルミアは、王子に近づいていく。
「でも、まだここでやるべきことがある気がして」
どこか固い意志を持った瞳を見て、王子は言った。
「ありがとう」
そう言って、びしょびしょに濡れてさらに小さく、か弱く見えるエルミアを抱きしめた。
「私、頑張るから」
王子の腕の中にいて初めて、自分の決断は間違ってはいなかったと、安心できる。
「当てにし過ぎている気がして、怖かった。お前は、よく無茶をするし」
ふっと笑う王子の腕から、慌ててすり抜けながらエルミアは笑った。
「これからは気をつける」
相手に聞こえてしまうのではないかと不安になるくらい、心臓が飛び跳ねていた。

