蒼月の約束



比較的、人間という生き物より全ての能力が上回っているエルフだが、その中飛び抜けて、抜群の記憶力を披露したのは、ナターシャだった。


エルミアが、読み上げた巻物の言葉を一言一句間違えないで、楽しそうに暗唱しているナターシャを、湯船につかりながら、まじまじと見つめる。


王子の粋な計らいで、あっという間に疲れが取れるという秘伝の粉を使ってお風呂に入ることを許されたエルミアは、脱いだらさらにモデル顔負けスタイルのエルフ三人とお風呂に入っていた。



「ミアさまが聞いたのは、風の精霊と土の精霊の召喚方法ですよね」

湯船の淵に座り、タオルで体を隠しながらリーシャが言った。

「うん。月と共に光る羽根、っていうのはペガサスの黄金の羽根で間違いないと思う」

湯船の中であぐらをかき、考え込みながらエルミアは言った。

体が芯から温まるのに、のぼせる様な不愉快感はないのが、秘薬の凄いところだ。

「虹色の空ってことは…、虹でしょうか?晴れた日の」

ナターシャの長い髪を結んであげながら、サーシャが言った。

「う~ん。でも月ってことは夜だよね」

「夜に虹ってかかります?」

サーシャが首を傾げると、ナターシャが天井を見ながら言った。

「かかるよ~。オーロラは虹色だもん」

三人が、同時にあっと声をあげた。

「じゃあ、黄金のペガサスって、オーロラが出る夜に飛ぶってこと?」

「そうかもしれませんね」

「ナターシャ、土の精霊は何?」

急かすようにサーシャがナターシャの肩をたたく。

「凍える洞窟。闇の中で光るは古代花」

サーシャが立ち上がった。

「例の童話ですね。氷の洞窟の奥深くに、古代の花が一か月の短い命で存在する。その蕾は光り輝いているという。私、精霊の書の内容も含めて、王子に報告してきますね。ほら、行くよ」


そう言って、まだ浸かっていたいと駄々をこねているナターシャを無理やり引っ張り出し、エルミアにお辞儀をしてお風呂から出て行った。