「え…。もしかして私、どこかに落として来た?」
森を出た後の記憶が定かでないエルミアは焦った。
「いえ!ちゃんと持って来て下さいました」
サーシャが慌てて手を振って言った。
「王子曰く、それは本物の精霊の書だったそうです」
「なら…」
リーシャが困った顔をしたまま言った。
「見ていていただければ、分かるのですが…」
いても立ってもいられなくなったエルミアは、リーシャに頼んで精霊の書を持って来てもらうことにした。
今、王子たちが図書室で調べ中なのだと言っていたが、どういうことなのだろう。
駆け足で戻ってきたリーシャの手には、確かに体にムチ打って取ってきた努力の結晶、お線香の匂いが漂う濃い緑色の巻物が握られていた。
「借りてきました。ここに書かれている文字が、どうしても読めなくて」
そう言って、食べ終わった皿を片付けているテーブルに広げた。
「どの文献を探しても、この文字が何語なのかさっぱりなのです」
エルフ語でもなく、古代の言葉でもなく…と続けるリーシャ。
「まずは言語の解読から始めなくては…」
しかし、エルミアは言った。
「私、読めるけど」
「え?」
「空が虹色に輝くとき、月と共に輝く黄金の羽根。
そこには、風の精霊シルフ。
海の奥のずっと底、その先に佇む一枚の虹鱗。
そこには、水の精霊ウンディーネ。
炎ほとばしる山の中、その下に眠る桃石。
そこには、火の精霊サラマンダー
凍える洞窟、闇の中で光るは古代花。
そこには、土の精霊ノーム。
彼らを眠りから覚ます時、世界は旋律を奏でる」

