「パパ……どうしておつきさまはずっとついてくるのかなあ?」
じっと、車の窓から視線を空に釘付けにしたまま、ユーリは首をかしげている。
今の俺に残されたたった一つの幸せの象徴。
けれど、時々……そんな風に魅せられたように空を見つめるユーリの姿に、不安がよぎる。
「……お月様はね、寂しがり屋なんだよ」
目を伏せて俺は呟いた。
幼い頃は、ユーリのように漆黒の夜空に魅せられていた。そこに輝く星々の煌きに、眩しすぎるほどに輝く丸い月の光に……俺自身そうだった。
そして幼馴染の二人も。
カイリとユーリもまた……そうだった。
だからこそ……不安になる。
「あまりお月様を見てはいけないよ、ユーリ。お月様は寂しがり屋だから……あんまり見ていると……」
見てはいけないという言葉に反応して、何故?といわんばかりの表情でユーリが振り返る。
何時の間にかもう家の前までたどりついていた。車を止め、エンジンを止める。
きょとんとしたままのユーリの耳元に口を寄せ、そっと囁いた。
「連れて行かれてしまうよ」
小さな体をそのまま抱きしめる。
ささやかな幸せを失うのが怖くて、大切な存在を再び失うのが怖くて……
彼女が空を見上げる横顔が、あまりにも彼女の母親の幼い日の横顔に似ていたから。
月光の中、闇に命を散らした愛しい人に似ていたから。
だから彼女もいつか宙に連れ去られてしまいそうで……

