降り注ぐ月光からその小さな体を隠すために。
ただただ、その体を抱きしめた。
引き止める術を他に思い浮かべることすら出来ないなんて……
あの日。
彼女をこうして抱きしめれば引き止めることが出来ただろうか?
頬を刺す冷たい月光――
窓から尾を引く光は痛みを呼び覚まし、天空のオブジェにその面影を残す。
後悔は消えることなく。ずっと。ずっと……胸を疼かせる。
今はまだ見上げることが出来ない月。
いつか見上げることが出来る日は来るのだろうか……かつては愛してやまなかったその存在を。
その日は見えない。今はまだ……まだ……
その光に怯えて祈るだけしか出来ない。
この腕の中のぬくもりを失わぬことだけを。
彼女を再び失わぬことだけを――
【完】

