「でも初めから終わりがあるって分かっているなら、後悔しない最高の恋愛になると思うけど? 社長なんだし、クルーザーみたいな別世界を見せてもらって、プレゼントも買ってもらって。楽しめばいいじゃない。割り切ることも重要よ?」

恋愛は楽しむ派、と公言する弥生でも私の恋愛に関しては、慎重派になる。だけど、恋愛したら結婚を意識するというマコは、私には遊べと言ってまるで他人事。

「なんでも買って貰ったら愛人じゃない」
「そうじゃないわよ、経験よ、経験。上流階級の男と付き合うなんて、宝くじがあたるより難しいんだからさ、人生においての思い出だと思えばいいじゃない。経験や体験はお金じゃ買えない貴重な宝になるんだし」
「なんだか寂しいけど」

ばくばく食べながらマコが言うけど、その食べっぷりといったらない。ここまで大きく口が開く女を見たことが無い。

「買ってもらった物は高額で転売するか、私達にお友達価格で売ってよ」
「なによ! ふざけて」
「社長もそのつもりで付き合ってたとしたら?」
「え?」

弥生に言われるまで、思っても見なかった。自分が期限付きの恋愛かもしれないと思っているということは、社長も同じように思っているかもなんて、そんなこと少しも考えなかった。

「弥生が言ったことは冗談よ、冗談」

マコが笑い飛ばしてくれたけど、ズキリと心に刺さった。この痛みは、この現実から目を背けていたことかもしれない。

「沙耶の恋愛に水を差すわけじゃないけど、社会的地位の高い男が独り身で、なんの色恋沙汰がないのがおかしい」
「あ、それは私も思った」

マコは食べるのに夢中だったくせに、そういう時だけ反応がいい。

「経営者だったら、後継ぎだって重要でしょう? 子供の一人や二人いたっておかしくない年なのに、独身なんてありえない」
「でも本当に何もなかったもん」

長いこと社長秘書をしている私が証明する。何もなかった。

「さすがに結婚歴があったとは言わないけど、婚約までしていたとかはあったかもよ?」
「……」
「沙耶、いいじゃん、もしそんなことがあったって、今は沙耶の彼氏なんだし、ね?」
「うん」
「平凡が一番よ」
「……うん」

さすがに不安になると、マコが慰めてくれた。弥生も悪気があって言ったわけじゃなことは、友達である私が良く知っている。面倒見のいい弥生が心配しているだけだ。

「しかし、こうも綺麗になる?」
「うん、確かに」

二人はまじまじと私の顔を見た。しゅんとなっていた私は、元気が復活する。

「そんなに綺麗になった?」
「うん」
「二人の言うことは信じる」
「うん、本当に綺麗になった」
「急にしんみりとしないでよ」
「いい恋愛をしてよ?」
「うん」

弥生は心から心配してくれている。
恋愛初心者に近い私が暴走しないように、ブレーキをかけてくれているのだ。