もはや五代病ともいえる。何をしても、何を見ても、社長と比べてしまう。
合コンのあと弥生と食事をしていた。

「もう今の会社を辞めようかな?」
「一流企業で? 社長秘書で? 勿体ない。結婚までいなさいよ。その方が絶対にいい男を捕まえられるから」

目を丸くして私に言う。

「結婚までって、もう二十九なのよ!」
「結婚なんてただのイベントよ。一流企業の男を捕まえて、楽しく暮らせばそれでいいじゃない。嫌いになったら離婚して、また結婚すればいいわ。でもエリートといい男が条件、そこは譲れない。だから辞めることはないの。そうは言っても私はまだ結婚したくないけどね」

彼女はそう言い切った。彼女は私と違って、彼氏が切れたことが無い。

「弥生はいいわよ、ずっと彼氏がいるんだから。私だって、彼氏でもいればこんな気持ちにはならないのに」
「沙耶、あなたは男を選ぶ側にいる女よ。仕事が邪魔をしているの。沙耶の会社は一流中の一流企業なんだから、合コンなんかしてないで、会社内で彼氏を見つけなさいよ」

弥生は真顔で言った。

「そうだよね……」

確かにファイブスターは一流企業で、エリートやイケメンは山ほどいる。でも何千人と社員がいるのに、私の琴線に引っかからないのは、社長がいるからだ。それを分かっているから、エリア外で彼氏を見つけたいのだ。
それに私は、世間に疎くなってしまっている。経済など詳しく知っていたら、男が引くような知識は豊富で、女の可愛らしい所がどんどんなくなっていく。俗にいう「可愛げのない女」だ。
母親も会う度、電話する度に、付き合っている人はいないのか、結婚はしないのかと矢継ぎ早に質問をしてくる。女は仕事が出来ても可愛くないと、昭和の女である母親は言った。

「だって仕事が忙しくて、彼氏が出来ないんだもん」
「ねえ、どうせならおたくの社長を狙ったらどう? 沙耶なら落とせるわよ? やってみたら?」

食後のアイスコーヒーをかき混ぜながら、煽るような目つきで私に言う。一瞬、社長を好きだと言うことがバレたかと思って、弥生が放った言葉にむせた。

「な、何を言い出すかと思えば」
「メディアには登場しないけど、めちゃくちゃイケメンじゃない? あれはヤバイ……見つめられただけで、いっちゃいそう私……」

弥生はうっとりしたように言う。

「ちょっと!」

ストレートな物言いに、またむせてしまった。
社長は何度か雑誌に取り上げられたことがあった。取材に応じないスタンスの社長だが、断れない取材を何度か受けたことがあった。弥生はその雑誌を見たに違いない。

「合コンの男たちを評価しすぎなのよ。それも評価基準が社長……沙耶、社長が好きでしょう? 間違ってないわよね?」
「まさか、対象外よ」

鋭い指摘に見通されているようで、怖くなって視線をずらす。好きだと素直に認めることが出来たら、どんなに気が楽か。

「秘書と社長じゃあ、エロ過ぎね」
「やめてよ」

誰にも言えないこの想い。
あなたが好きだと大声で叫んでみたい、胸の内。片思い中だとも言えずに、また悶々とした。