合コンが終わっても、私の気分は下がらなかった。

「ムキムキ公務員の次はドクターヘリにして」
「最近観たんでしょ? すぐに影響されるんだから」

仕事に追われること数年。見逃したドラマや映画も数多し。社長に振り回される女じゃなくて、振り回す女になろうとしたけど、それも出来ない半端者。
片思い中もそうだったけど、彼氏となった今も、仕事中も家に帰ってからも、私の生活の大部分を社長が占めていた。社長が私の中心で、社長軸で何もかも動いていた。
それが苦しかったわけでもないし、嬉しかったというほうが強い。少し自分を大切にして、時間を作ろうと急に思った。

「時間は誰にも平等に振り分けられているのにね」

なんだかセンチメンタルな気分になったけど、単純にそう感じただけ。

「社長とどうして付き合うことになったんだっけ? あ、そうだった、胃腸炎になって担ぎ込まれたんだっけ?」

遥かかなた昔のように語るけど、ついこの間なんだよな。
弥生が言ったように最近、動画配信でドラマと映画を観まくっている。こんなに見逃していたんだと改めて感じた。
頭を使うような推理物じゃなくて、ラブストリーをメインで観ている。私はドラマのラブシーンやキュンキュンするようなシーンが大好き。
だから妄想が激しい女に成長してしまったのかもしれないけど、傷心の今は、癒してくれるものならなんでもいい。
ドラマを観ながら考えるのは、あの入院の時。胃が痛くて倒れてしまった時は、何回かあった分岐点だったのかも。一人道で倒れて、通行人が救急車に電話。すぐに搬送しなくちゃとドクターヘリを呼ぶと、下りてきたのは藍沢先生こと山ピー。
これが縁で付き合うことになるけど、彼女だとばれてはいけない日陰の身。それでも全身全霊で愛してくれる山ピーについていく。

「そうよ、あの時、社長が助けたから私の運命が変わったのよ」

今は、山ピーがおばあちゃんの背中を抱いて、泣くシーン。ミュージックはHANABI。なんとも言えないイントロで気分は最高潮。

「素敵すぎて、泣いちゃう」

冷たくふるまっていても、一番やさしくて人の気持ちが分かる藍沢先生。

「社長に爪の垢でも飲ませてやりたい」

藍沢先生は優しいだけじゃなくて、思いやりも隠し持っている人。それに比べて社長ときたら、懐は分厚くてパクパク開くお財布を持っているけど、思いやりのおの字もありゃしない。私を泣かせてばかりで、むかつく。
好きすぎる自分が許せないから、とことん痛めつけてやりたい。
年末に向かって忙しいのに、労ってもくれない鬼畜社長。悔しいから今日は、新聞のページをシャッフルしてやったわよ。

「ざまぁみろ」

デートがしたいけど、週末は接待で埋まっているし、私も合コンで忙しい。こうしてすれ違って自然消滅していくんだな。

「別れる、別れない、別れる、別れない、別れ……」

ポッキーが別れると予想しそうだったから、食ってやったわ。健気な彼女に感謝してもらいたいものだ。