今日は待ちに待った合コンの日。
なんていうのは嘘で、こんな子供みたいな仕返しはしないほうがいいと、どこかで思っていた。そりゃ、園遊会の日は頭に血が上って、嫉妬と怒りに任せて弥生に合コンを頼んでしまったけど、1週間近く経って冷静になるとどうしようもない仕返しだと、反省する日々だった。
もちろん反撃はするけど、こんな方法じゃなくて、もっと大人で頭のいいやり方があるはず。
それでもその方法が見つかるまでは、これで行くしかない。止めるのもしゃく、やらないのもしゃくだから。

「沙耶」
「はい」
「食事に行かないか?」

社長はものすごい嗅覚の持ち主だ。私の反抗が始まる日にお誘いとは、いつも張り巡らせている五代アンテナが何かキャッチしたのだろうか。
いや、私が素直で分かりやすいから? 弥生にもそこは注意されていて、行動は十分に気を付けていたはずだったけど、かえってぎこちなかったのだろうか。

「ごめんなさい、友達と約束を……」
「そうか、それじゃ仕方ないな」
「また誘ってください」

「誘ってください」って、付き合ってるんだから言い方違うわよね。「ごめんなさい」でいいのによそよそしい。こういうところが社長との距離なんだろうな。

「お先に失礼します」
「沙耶」

退勤する私にキスをくれる。
毎朝のキスもそうだけど、やっぱりキスが冷たく感じる。
先に帰るのは、後ろ髪を引かれる思いだったし、先に帰りたくないと縋っていたのが嘘のようにそそくさと帰る。
弥生は熱しやすく冷めやすい恋愛で、マコはすぐに結婚を考えるという重たい恋愛。私は? 私はどうなんだろう。
合コンは公務員を集めたと言っていた。ハイスペックな男、ハイクエンドな男はお断りにした今回の合コン。身の丈に合った男が一番いいし、育ちってあるんだよね。

「弥生」
「お、今日は遅刻せずに来たね」
「定時で退勤したもん」

駅で待ち合わせをしていた弥生と合流して、合コンの会場へ向かう。

「マコは?」
「先に行ってるよ」
「気合入ってるじゃない?」
「別れたらしいから」
「え!? もう!?」

確かつい最近付き合い始めた記憶があるけど、早くない?

「結婚願望がないんだってさ」

マコは付き合う人とは、結婚を意識して付き合うと言っていたっけ。確かに料理も掃除も好きで、家庭的ではあるけど、好きという気持ちより、結婚が一番にくるのはどうなんだろう。

「好きが一番なんじゃないんだね」
「マコの言うことも一理あるわよ? うちの母親も言ってたけど、愛だのなんだのなんていう感情は一年しか持たないって。結婚は生活だから感情だけではうまくいかないってさ」
「う~ん。うちのお母さんと言うこと一緒だ」
「先輩の意見は素直に聞いたほうがいいかもよ?」
「え~ 寂しい~」
「そんな甘いことを言っているから、見合いされちゃうんだよ」
「……」

され女。
そうよ、私はされ女、され彼女、され秘書だった。

「頑張る」
「頑張らなくていいから、気軽に男と遊びなよ。免疫が少ないからこんな目にあうんだから」
「わかった」

一途なのが一番いいと思っていた。でも、相手を信じ過ぎてこんなことになってしまったんだから、世間並みに遊んでもいい。

「ここよ、今日はね焼肉よ」
「焼肉!?」

合コン場所で焼肉に行くのか? 一番避ける場所のような気がするけど。

「マコがね、肉を食らう姿で男を見定めるっていうのよ。よく肉を食べる男は、性欲もあるし生きる力がみなぎっているっていうからさ」
「そうなの!?」
「まさか、マコの持論でしょ? あんたも参考にしなさいよ」
「う、うん」

社長はよく食べるけど、いつも身体を気遣ってお腹いっぱいには食べない。確かに豪快に食べる人を見るのは気持ちがいいから、それもあながち嘘じゃないかも。

「食べ放題だから、お腹いっぱい食べて」
「マコはどうするんだろ」

大食いのマコだけど、合コンでは全く食べないあざとい女だ。

「自分の食べる姿を見て気持ちがいいと思ってくれる男をゲットするんだと」
「安定の公務員だしね」
「そうよ、マコが正しい」

マコがどれくらい食べるのか見ものだけど、私も楽しまなくちゃ。