【コミカライズ化!7月28日配信!】5時からヒロイン

なるほど、朝の態度はこういうことだったのか。社長が私の変化を見逃さないように、私も社長の変化を見逃さない。何かあると思ったのは間違いじゃなかった。

「プライベートなことを秘書に報告することもないですしね、水越さんが知らないのも当たり前ですよ」
「並木さんはなんで知ってるの?」
「会長に見合いの為の場所を予約するよう指示があったんです。社長ですか? とお聞きしたら、そうだと答えられたので」
「そう、なの……」
「とうとう独身ともお別れですね。社長も年貢の納め時ですよ。浮いた噂一つなかった人だけど、あれだけの容姿で彼女がいない方がおかしいんですから。ね? そう思いません? 水越さん」
「……」

ショックを受けているとか怪しまれちゃいけないと思いながらも、言葉がでてこない。なんとなく思ったこともあったけど、毎日が幸せ過ぎてすっかり忘れていた。
現実味を帯びてきた私と社長の格差。私が身を引くべきなのは分かっているけど、付き合い始めてすぐの別れは、身を引き裂くほど辛い。違う、ケンカをしたり、嫌いになったりしたわけじゃないのに、別れられるはずがない。
ずっと秘めてきたこの想いは誰にも負けないし、消えない。
それでも私は、社長に一番いい選択をしなくちゃいけないことも知っている。

「水越さん、社長が呼んでいらっしゃるわよ」
「え?」

ゲストと見合い相手の令嬢を交えた輪の中で、社長が私に手を上げて合図をしていた。

「はい」

社長と視線を合わせているのに、令嬢まで目に入る。穏やかで上品な笑みを浮かべていた。
煮えたぎるような嫉妬心を抑えて、秘書に徹しなければいけないけど、出来るだろうか。
だけど、見合い相手が同席しているところに、恋人を呼ぶ神経が分からない。後ろめたいと思っていないから出来るのだろうけど、あまりに無神経じゃないだろうか。

「社長、御用でしょうか?」
「すまないが、彼女に何か飲み物を」

なんですと? 恋人に見合い相手の接待をしろと? いや、今は秘書だからぐっとこらえなくちゃいけない。

「畏まりました。何をお飲みになりますか?」
「申し訳ありません。オレンジジュースをいただけますか?」
「畏まりました」

頭のてっぺんから声を出して、社長に気に入られようとでもしているのだろうか。社長は私のような何もできないガサツな女が好きなんだから。
令嬢からくるりと背を向け歩き出すとき、おもわず社長を睨みつけてしまった。心の広い女になりたいと思っているのに出来ないし、物分かりのいい女にならなくていい。きっと後から言い訳をするだろうけど、聞いてなんかやらないんだから、覚えてなさい。

「キンキンに冷えたオレンジジュースにしてやろうか」

肌寒い夜に、オレンジジュースを頼むからいけないんだ。温かい紅茶とかコーヒーとかいえばいい物を、よりにもよってオレンジジュースなんて、今どき中学生でも選ばない。

「あのワンピースだってどこの物か知ってるし」

私がボーナスを奮発しても、買えないブランドのワンピースを着ちゃって、厭らしい。男受けがいい服を知っているところは清純そうに見えて、あざとい。すでに育ちからして格差が出ているのに、今の私は彼女でありながら、召使みたいじゃない。
何もしたことがないような手、念入りに手入れをしている肌。
一瞬でも上から下まで見てやったわ。まったく、普通の社員じゃできない手のかけようだ。

「氷も入れてやる」

グラスの半分は氷にして、キンキンに冷えたオレンジジュースを作る。グラスを持っていても冷たいくらいだ。

「ストローは差してあげる」

こんな意地が悪い所があったなんて、知らなかった。社長にも同じようにしてやりたかったけど、頼まれていないから出来ない。

「そうよ、一緒に持って行けばいいんだわ。社長はアイスコーヒーにしてやる」

令嬢と同じように氷をたっぷりといれ、コーヒーを注ぐ。

「ガムシロップもたっぷりと」

ブラックでしか飲まないコーヒーに、甘いシロップを混ぜる。そんなことをしても鼻で笑われるだけかもしれないけど、何かやらずにはいられない。

「待ってろ五代」

憎しみしかわいてこない感情を、飲み物にぶつけた。憎しみを込めて作ると、苦くなるというけれど、くそ甘いコーヒーを淹れてやったわ。