「……すみませんでした。クリーニング代払うので、掛かったお金このアドレスに請求して下さい」

LINEのIDを手帳に手早くメモして、トイレの前で服を拭く男に手渡す。手に握られているのは私のチェック柄のハンカチだ。男は服から顔を上げ、メモと私の顔を一瞥すると、また服に視線を戻した。

「私は悪くないって顔してる」
「……してません」
「じゃ、こんな男置いて早く帰りたいって顔?」
「……違います」
「あんた演技下手くそだね。今時モデル上がりの女優の方がましな演技するよ」

男は最後に適当に服を払い、私にハンカチを返した。そこでようやく交わった視線には、ひとつも私を責める色がなく、私は少し拍子抜けする。
元より合コンを楽しんでいるようには見えなかったが、それとこれとはまた別の話だ。

「怒らないんですか」
「喧嘩売ったの俺だし。あんただってそう思ってるからそんな顔してんでしょ。……はは、変な顔。素直だな」

だから騙されんだよ、と男は元凶の言葉を再び口にした。