ひと夏の、

小さな映画館の前で待ち合わせすると、私たちは時間をかけて1本の映画を選び、上演時間まで他愛もない思い出話に花を咲かせた。


まるで、出逢った頃のように笑いあった。
このまま昔みたいに戻れるんじゃないかと錯覚してしまいそうだった。


けれど、私たちはもう、あの頃の私たちとは違う。
たとえ戻れたとしても、つまらない映画のエンドロールを並んで観られるほど、同じ時間を、想いを、共有できないことを知っていた。
だから、選ぶことにしたのだ。繋いだ手を離すことを。


私たちはスクリーンの前に並んで席に腰を下ろした。
真ん中より少し後ろ。長い間座っていても、首が疲れないお気に入りの場所。もう二度と2人では座らない場所。


その上映を観たのは、私たち二人だけだった。