ひと夏の、

待ち合わせにしていた映画館が潰れると決まったのは、ちょうどその頃だった。
小さな映画館だったから集客が見込めず、以前から話は出ていたけれど、老朽化でスタッフが怪我をしたことが決め手になったらしい。


それを聞いた私たちは、どちらからともなく別れようか、と切り出した。
あの映画館の前で待ち合わせをした頃のように、ただ一緒にいるだけで幸せだった時間には戻れないのだと、気がついてしまったのだ。


彼を好きでいたかった。
嫌いになる前に、離れたかった。


彼もきっと、同じ気持ちだったのだと思う。
だから、最後にデートをしませんか、と私が提案した時、彼は驚くこともなく優しく頷いた。